最終更新:2024年10月11日
72.真偽
A男は狡猾だった。
ずる賢さにかけては、右に出る者はいないだろうと自負していた。
この自信から、A男は自分以外の者は腹の中では常に小馬鹿にしていた。
同時に、A男は曖昧さを利用する達人でもあった。
それは法律であっても同じだった。
A男は、まだ法が整備されていない分野で好き勝手に振る舞った。
そして法で裁かれる可能性が出てくると「俺は法でも裁けない」とばかりに、まだ整備されていない国へ移動することも厭(いと)わなかった。
そして、また同じことをする。
忘れた頃に戻ることもA男にとっては、計算された行動だといえた。
A男はその狡猾さから、印象操作もお手の物だった。
そんなA男を敬う人間も、後を絶たなかった。
A男は優越感を感じ、益々周りが小馬鹿な集まりに見えていた。
そしてA男は、その本性を巧みな話術で隠していた。
そんなある日の事。
手軽に知能をアップできる装置が開発された。
それにより、人類は全体的に知能指数がアップした。
すると、A男のずる賢さは通用しなくなり、必然的にA男の化けの皮は剥がれてきた。
それからというもの、A男は方向転換を余儀なくされ、今では道化として人々を楽しませているのだった。
補足
どんな事にも抜け穴があるとすれば、法律も例外とはいえないだろう。
単なる言葉一つであっても「様々な事象と対応していることで、命題が真か偽かは、その対応が妥当かどうかによる」といったように、難題となりうる。
とはいえ、そこまで難しく考える人は専門家くらいだろう。
裏を返せば、言葉を操ることで、いかようにでも出来る可能性があるといえる。
であるなら、人々の心は尚更だといえるのかもしれない。
つまり、抜け穴は多く操られやすいということにも繋がっていく。
もちろん、操られた方が考えなくても済むため楽だという見方もあるだろう。
とはいえこれは無意識レベルの話であり、表面的には出てこない。なぜなら自由意思を守りたいという本能が働くからだ。
「操られたくない」「操られたい」この2面性をあわせ持つ性質をすり替えの技術により勘違いさせられる。しかも気がつかない内に。
これは真偽のすり替えに似ている。
これに抗うのは簡単ではないといえるだろう。
「誰か私を操ってくれ」と言う人が増えたなら別だが..
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