最終更新:2024年10月11日
60.平等
A博士は、遂に完全なる平等な世界を創り上げられる「バーチャルリアリティ」の装置を開発した。
その装置を使えば、脳だけで生存できる。しかも自覚はない。
想像したものが現実感として現れ、実際には他の者とは繋がっていない。
にも関わらず繋がっている感覚を得られる。
この装置を使うことで、全ての人間が平等に、想像できる分だけ現実感を得られることで、楽しめる世界を形成できる。
必要とあれば、もちろん苦しみも同様に形成できるということになる。
「それでこそ、平等だといえるだろう」とA博士は思った。
「残る問題は、順序だな」と、A博士は考えていた。
誰からそのバーチャルリアリティシステムに組み込んでいくのか?
その順序で息詰まっていた。
仮に、希望者の順にその装置に組み込まれたとしても、脳だけで生きていくといった人道的な問題は必ず生じることは予測できた。
A博士は思った。
「平等を目指すのなら、一斉に行わなければならない」
幸い、自動化が急速に進んだ事で、人間が存在しなくとも十分に栄養が行き渡る仕組みは既に可能となっていた。
A博士は決断した。
「全ての人間に対し、眠りについた後目覚めるまでの時間を使い、何も知らない内に自動的に脳がシステムに組み込まれれば、この問題も解決するだろう」
その手段にも全く問題なかった。
A博士は満足した口調で呟いた。
「脳波の周波数は既に研究済みだから、後は発信するだけだ。
携帯が普及していて良かった。
繋がらないところにいるものには、衛星で直接送ることにしよう」
補足
平等と人道的な行いを、同時に行うことができるのだろうか?
全ての人のための行為が、人の道を踏み外す行為だとしたら、どちらを選ぶべきなのか?
それ以前にその事自体が人知れず行うことができたとしたら、抗う術はあるのだろうか?
とはいえ、これらを避けるべきだからといって、不平等を安易に飲み込んでも許されるわけではないといえるだろう。
どちらにしても変化自体に気がつかなければ意味のない話だが..
次は..61.確率