7.悪
Aは裁判長だった。
一見すると順風満帆に見える人生といえた。
そんなAにも、幼い頃から抱える悩みがあった。
それは人を殺さずにいられないといった深刻な悩みだった。そう。自分がシリアルキラーだということは十分に理解していた。
Aは殺さずにいられない生まれ持った性分があるとはいえ、だれでもかれでも殺すということはしないだけの自制心は持ち合わせていた。
裁判家の知識もあったため、ターゲットを選ぶ時には慎重に慎重をきっしていた。
ターゲットは裁判で裁けない冷酷な殺人鬼だけだった。その中には、ずる賢い者もいるし、権力でネジ伏せるものもいる、財力でケリをつける人間がいることも知っていた。
野放しにすれば多くの人を不幸に追いやることが分かっていても、立場上、無罪を言い渡さければならない場面にも度々遭遇していた。
ターゲットがそのような法を逃れた者でも、殺すことがやめられない自分に葛藤を抱き常に苦しんでいた。
どんな悪人であれ己に裁く権利がないことは、誰よりも自分自身が分かっていたからだ。ましてや殺す事が許されるはずもなかった。
Aは、いつ捕まっても他に迷惑がかからないように家族は持たなかったし、出来るだけ深い関係も築かないようにしていた。
そして、いつ裁かれもおかしくないと覚悟を決めていた。
Aは思った。
「それまでに、極悪人から一人でも多くの人達を救いたい」と。
補足
法治国家の中では特に、裁判で裁かれなければならない。
仮に法の抜け道からのがれている者がいたとしても、道徳的にも裁く権利はないといえるだろう。
では、悪がもっと大きな悪をさばく場合はどうなるだろうか?
例えば、ルパン三世。
彼はドロボウだ。
それにも関わらず、好感度を得て主役の座を得られるのは、もっと大きな悪と戦っているからだといえるだろう。
彼はワルサーP三十八というピストルを所持している。
あくまでも漫画なので、主人公が殺す場面はでない。
もしかすると出ないだけで、それで殺しているかもしれない。
直接的に殺すまではしていないとしても、爆弾を使うこともあるので、犠牲になった人間はいるだろうと予想できる。
それでも相手が大きな悪とみなされれば、許されるのだろうか?
これを許してしまうと、悪を許すことにはならないだろうか?
例えばコンビニの万引き常習犯も「国家を脅かす悪と戦うため必要なので行っている」となれば許されるのか?
そんなはずはないといえるだろう。
もしかすると、殺しでなければ秘密裏に規則を破ることが許される場合もあるのかもしれない。
24のジャック・バウアー曰く「法を破るものと渡り合うためには、いちいち法を守っていられない」とあるように…
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感想
Aの物語は、正義と悪の境界が曖昧になる瞬間を描き、その矛盾と葛藤に心を揺さぶられました。裁判長でありながら、抑えきれない衝動に苦しむAの姿は、法と道徳の限界を浮き彫りにし、強烈な印象を残します。