最終更新:2024年10月11日
30.無料
Aは無料が好きだった。
「無料でなければ許せない」
それは、Aのポリシーとも言うべきものだった。
そして、遂にAが待ち焦がれた時代が訪れた。
そこは、全てが無料で利用できる世界だった。
スマホももちろん無料で手に入り利用できる。
住む家も家賃も必要なく、無料で住むことができる。
車さえも無料で持つことができた。
もちろん条件はあった。
それは「広告が表示される」ということだった。
それと、どんなサービスや物であっても、そこまで上等ではなかった。
食べ物も、無料で手に入った。
提供主にとっては、本来捨てていたものへ安価ながらも国から支給されるので、喜んで提供していたからだ。
多少形が崩れていたりしていたが、食べられないものではなかったから、Aにとっては全く問題にならなかった。
スマホやパソコンとインターネット接続も、起動と表示する度に広告が表示され、速度もそこまで速くはなかったが、何の支障もなかった。
医療も少し精度が落ちるが、無料で受けられた。
録画されたものを図書館から無料で借りることで、学ぶこともできる。
これも全て、広告を煩わしいと思う人や、上のランクを得るためにお金を払ってくれる人達のお陰だ。
Aはそのうちに欲が出てきた。
もっと満足したい。
といっても、無料のポリシーは譲れない。
Aはいつしか、インターネットの世界にいる時間が長くなっていた。
インターネットであれば、時間をかけて辛抱強く探せば、より満足度の高いものを見つけることができるからだ。
Aは、満足した生活をおくっていた。
そして、Aのような人達が増えてきた。
それを知った有料にお金を払っていた人達が、お金を払うバカバカしさに気がついた。
やがて世の中の経済活動は停止してしまったため、殆どの無料のものは廃止されるようになった。
残された無料のものは、より強力なメッセージを放つ広告に置き換えられるようになった。
それにより、無料のものは価値がなくなっていった。
世の中は、元の状態に戻ることになった。
それでもAの無料志向は変わらなかった。
今ではAは、現実はできるだけ見ないようにし、細々と食いつなぎながら暮らしているのだった。
補足
全ては無料になる可能性がある。そうなれば、二極化も埋められるのかもしれない。とはいえ、タダ乗りを全面的に肯定できるとは限らない。
問題は、それだけでは収まらなくなる可能性があるということだ。
「知らない人、やっていない人が損をする」となれば、エスカレートしていく可能性も否めない。
絶対に誰も損をしないシステムを構築できるなら別だが..
次は..31.命