10.心
Aは、全世界をまたにかけるアドバイザーだった。
クライアントの中には、各国の代表もいたほどだ。もちろん、その中にも大統領もいた。
それだけではなかった。
Aは誰にでも分け隔てなく的確なアドバイスをするため、世界中での人気を誇っていた。
真心が込められたアドバイスをしてもらうため、アドバイスを受けた者は感動する人も少なくなかった。
そのため、毎日、物凄い数の相談が届いていた。
しかも、その相談を助手と二人でこなしていたのだ。
そんなある日の事、Aが年老いて、いなくなった場合の事を懸念する声が世界各国からあがってきた。
助手がその事を伝えると、Aはこともなげに言った。
「なに、大丈夫さ。このコンピューターのプログラムが動いている限り」
それを聞いた助手も同意した。
「そうですね。これまで言葉を話す必要さえもなかったのですから、問題ありませんね」
補足
心とは形のないもので、とらえどころのないものだ。
とはいえ、心があると信じている人にとって、それがプログラムから生じたものだとしても、同じように「心がある」と感じられるのだろうか?
もしかすると心とは「そこに心がある」という感覚で成り立つものなのかもしれない。
なぜなら、どんなに真心を込めて作られたものでも、それが機械だと知ることで心を感じられなかったら、心がないと思うだろう。
プログラムであれば、尚更なのかもしれない。
もちろん「プログラムにも心がある」と認識されれば、別の話だが…
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