悪魔はA子に呟いた。
「さぁ、どちらか選べ」
A子は、その選択肢に戸惑いを隠せなかった。
目の前には、三つのボタンがある。
その内の一つを選び、二十四時間以内に押さなければならない。
悪魔は囁いた。
「三つのボタンは、それぞれの人間達の運命に繋がっている。
ボタンを押した人間達は助かる。
押さなかった人間達は十年以内に大きな事故に合い、生涯不幸な人生を歩むことになる。
残った人間は生涯に渡り幸福な人生を歩める。
時間内に選べなければ全員が死ぬ。
さぁ選べ」
そして、それぞれのボタンに繋がっている人間達は、こうだった。
一つ目のボタンは「刑務所にいる囚人達、千人」
二つ目のボタンは「A子もファンである、今売れている三人のアイドルグループ」
そして三つ目のボタンは「年に数度ほど連絡をとっている両親」である。
A子は、個人的にはもちろん両親を選びたかった。
次にアイドル、そして囚人達と言いたかった。
とはいっても、数で言えば圧倒的に囚人達である。
たとえ二人に一人の再犯率があるとはいえ、それでも半分である。
A子には、とてもではないが決める勇気はなかった。
それでも、決めなければ全員死ぬことになる。
となると、問題は悪魔の信憑性となる。
悪魔は選択肢を出す前に、実際に力を見せつけたので、疑うわけにはいかなかった。
悪魔は言った。
「何を迷うことがある。お前はこれまでも、選択してきたではないか。
大勢の命よりも一部の幸せを選んできたではないか。
これで見てみぬふりは出来なくなった。それだけの話だ」
平等と道徳は、簡単に解決できない問題だといえるだろう。
私達は普段、感情的そして主観的に物事を考えている。
もしかすると、身近な物事を考えていくことで精一杯といえるのかもしれない。
それでも、この問題に目を背けても許されるわけではない。
私達は直接手をくださないにせよ、大勢の命を奪って生きているのだから..
実は、この物語には、結末があった..
A子は決められなかった。そこで決断した結果は、次のようなものだった。
「私は決められない。でも全員死ぬことを黙って見ていられない。
私は決めたわ。私を殺してちょうだい。
それで、皆が助かるのなら、私はそれでも構わない」
すると、悪魔は言った。
「クククッ。そうか。そう決めたか。
本来であれば取り決めいがいは許されない。
だが、お前の命も奪わない」
そういうと、悪魔の周りは煙に包まれた。
それを聞いたA子は「えっ!」と驚きをみせた。
煙の中から、なんと仏が現れた。
「A子よ、よく決断しました。私はあなたを試したのです。あなたは見事に試練をクリアしました。あなたが死んだ後、天国に行けることを約束しましょう」
それを聞いたA子は言った。
「試すなんて、最低ね!
私は死んだ後なんて分からないから、どうでもいいわ。
今の人生を幸せにしてちょうだい」
次は..70.無限