85.加担

子は、安売りに目がなかった。

この理由で、徹底してコストパフォマンスを追い求めていた。

「賢く生きなきゃ」

情報弱者になりたくないため、バーゲンセールの情報には、常にアンテナを張り巡らせていた。

そんなある日の事。

A子は最近仕事が減ってきた事を悩んでいた。
安月給の求人しか出なくなっていたこともあり、これまで培ってきた自分の才能を活かし伸ばすため、貯めてきたお金を使い、思いきって起業することにしたのだった。

A子には、消費者の気持ちは十分過ぎるほどわかっていた。

そのためA子は、出来るだけ安くて良い物を提供することにした。

それには安く仕入れることが大事だということで、自社で制作することにした。

その上で、経費を削らなければならない。

経費でもっともかかるのは、人件費に他ならない。

A子はどうやって人件費を削るか、考えを絞り始めた。

まずは最小限の人数で運用することを試してみた。

すると、次第に余裕がなくなり、製品の品質維持が保てなくなった。

しかも最低賃金では、能力の高い人材確保にも限界があった。

そこで、海外の人件費が安い所で制作することにした。

そして、相場の高い国で安く販売したところ、安く売ることが出来る上、利益も出るようになっていた。

この時点でA子は、自国の求人が減っている事に加担していることに気づくべきだった。

A子は、コストパフォーマンスを追い求めていたため、元々、失業の危機から起業した事はすっかり忘れていた。

この理由で、A子はこれで満足しなかった。

品質を維持しながらも、更に経費を削減できないかと試行錯誤していたところ、ある情報が流れてきた。

それは、ロボット化だった。

ロボットは、人件費の大幅削減に繋がる。

A子は「これだ!」と思った。

最初は単純な仕事を人間からロボットに組み換え、ロボットの性能が上がるにつれ、複雑な作業もロボットへ変えていった。

するといつの間にか、人間を雇用する必要はなくなり、全てロボットが製造していた。

そこでA子は、考えた。

「これからはロボットの時代だわ。それなら、ロボットに必要な部品を製造する方が効率的だわ」

それからというもの、A子はロボット会社相手に部品を提供することになった。

そして、ロボット会社は更に性能が高いロボットをA子の会社に提供した。

A子の会社では、性能の高いロボットにより、より多くを効率的に製造できるようになっていった。

そこには既に、人間の介入すら必要がなくなっていた。

実際にA子は、経営手腕をAIに任せていた。

今回の案も、コンピューターからのアドバイがあったからこそ、実現できたといえた。

そんなある日の事、A子は「はっ!」と気づいた。

そこでは既に、A子の存在すらも必要なくなっていたのだ。

A子は、いつクビを切られるか、ビクビクしながら過ごすのだった。

A子自身のコストが無駄だと判定された瞬間、A子は切り捨てられたのだった。

補足

大量生産と経費削減が加わり、コストが減り、安く手に入るようになる。

すると安い賃金でも、そこそこの生活ができるようになる。

一見すると何の問題もないように見える。

見方を変えてみると、もしかするとそれは、オブラートに包んだ現代的な軟奴隷制度を作り出している可能性も否めない。

それもロボット化されることで、解決されるのだろうか?

ベーシックインカムは、様々な問題を抱えていると指摘されている。

利益至上主義が進む中で、そこにテクノロジーの力が加わることで、人間の存在価値は何処へ向かっていくのだろうか。

世界はもはや、自給自足生活では解決できないほど、複雑に絡みあっているといえるだろう。

同じ様に、賢いと勘違いを生む自己中心主義は、気が付かない内に搾取の加担に加わってしまうことで、巡り巡って自分の首を絞める事になるのだろうか。

どちらにしても、他のグローバルな問題と共に、経済自体も大きな転換期を迎えているのかもしれない。それら全てをあざ笑うものがいたとしても..


次は..86.自由意志

1.解釈


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