最終更新:2024年10月11日
70.無限
A男は、選択の重荷に耐えきれず、ある真実から目をそらしてきた。
そして、全てに虚しさを感じていた。
その真実とは何か?
「生まれ変わりはある」という真実だった。
通常、死んだ瞬間、全て忘れてしまうものだ。
A男はそれを思い出したのだ。
そしてその生まれ変わりは、A男が知っていたものと違っていた。
死んだ後は時間という概念が存在せず、リセットされ元の母体の中で再び誕生するという真実だった。
A男は、既に九十万五十七回目の人生を歩んでいた。
それも数をしっかりと数えていたわけではないので、確かではない。
A男は「いっそ、忘れた方が幸せだ」と思った。
それも無理な話だった。
しかも、これから起きる未来は分からないのだ。
ただ「繰り返されている」といった、確実な感覚だけがあった。
A男は何をやっても無駄だという気持ちと、少しでも変化を加えれば、それ自体が永遠に繰り返される重荷も感じていた。
どちらにしても、まともに考えると気が狂いそうになるので、全てを受け入れることにした。
そして、それなりに人生を楽しんでいくことにしたのだった。
そう考えると気が楽になった。
「こんなに楽しい思いを無限に経験できるのか。ラッキー!」
補足
永劫回帰も前世や来世を同じく、どこまで考えてもそれが記憶にないのなら、それ自体が意味のないことなのかもしれない。
だとしても、人生に味のある考えを付け足すという事では、意味があるといえるだろう。
真剣に考え気が狂いそうになりながらも、それを乗り越えた時、深みのある人生を味わえるようになるのかもしれない。
新しいものを生み出す繰り返しがあればの話だが..
次は..71.快楽