32.記憶

に記憶をインストールできる装置が開発された。

A子は旅行が好きだったため、様々な場所の記憶をインストールして楽しんでいた。
この装置は記憶だけでなく感覚も入っているため、本当にそこに行ったような気分を全身で味わうことができる。

そこでA子は新しいことに気がついた。

全く同じ記憶と感覚にも関わらず、実際に行った本人と感じ方は違うということだ。
例えば食事にしても、実際に食べているかのように味覚の神経は反応する。

実際に食べた本人の感想では、とても美味しかったと感想が書かれていた。
A子は、とてもそうは思えなかった。
もちろん、その逆のパターンもあった。まずいと感想が書かれていたにも関わらず、A子にとっては、とても美味しく感じられた。

そう考えると人間は記憶で出来ているのではなく、感覚への感想で出来ているのかもしれないとA子は思えた。

そんなある日の事、A子は衝撃の記憶をインストールしてしまったのだ。

それは、次々と人を殺すことを楽しんでいる猟奇殺人の記憶だった。
A子は吐き気を催し、直ぐに消去することにした。

ところが、その記憶は結構人気があるらしい。

怖いもの見たさということだろうか。にしても、これで同じ記憶でも受け取り方が全く違うということに納得できたA子であった。

それでもA子は実際に体験したような気分になり、夜な夜な悪夢に苛まされるようになっていった。
実はその記憶は、違法性をなくすため「猟奇殺人のドラマを見ていた人の記憶」だったということにA子は後から気がついた。そのドラマはかなりのリアリティーを持って作られていたため気がつかなかったのだ。

気がついた後も経験としてインストールされているため、A子の悪夢は収まらなかった。

最近では、インストールした経験と自分自身の経験が混じり合うこともあり、何がなんだかわからなくなってきていた。

A子は開発元に「記憶の消去機能」をリクエストしたのだった。

補足

仮に自分自身が記憶で作られているとしたら、こんなに曖昧なものはないといえるだろう。

記憶はパズルのピースのような形で収納されている。他の人の記憶をダウンロードできたとしても、それもどこまで正確なのか分かったものではない。

主観性が入らないのであれば、その体験された景色や音などを感じ楽しめるといえるだろう。
とはいえ、その感じた感想も含めて自分自身だといえるのかもしれない..


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1.解釈


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