最終更新:2024年10月11日
66.前世
A子は、特殊な能力を持っていた。
それは自分自身の前世を覚えている能力だった。
前世が分かるという人は聞いたことがあった。
それでもA子の能力は少し変わっていた。
A子は他の人の前世は分からない。
自分自身の前世だけなのだ。
しかも、特殊なのはそれだけではなかった。
A子の前世は、一人でなかった。
それは、同じ時期にも関わらず特定の一人ではなく、しかも人間だけでもなかった。
あらゆる生物そして植物、果ては物質の感覚もあったのだ。
A子は、様々なものや生き物がバラバラになった結果、その集まりとして自分自身が誕生したことを理解できた。
その元になるものの記憶というか、感覚を覚えているのだ。
「私の前世は、空気中の一成分に過ぎなかった」といっても、誰もこのような話をまともに捉えてくれる人はいなかった。
A子にとっては、それでも構わなかった。
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「いつか今の自分自身も死んで、来世は他の誰か、または何かの一部になるのだから、考えても仕方ないわ」
確かにA子は、特殊な能力を持っていた。
しかしその能力は殆ど役に立つことはなかった。
「今を生きよう」
ただそんな想いが、A子の胸の中をこだましていた。
「他の全てのお陰で」という感覚と感動が身体全体に広がっていたのだった。
補足
生まれ変わりや魂の存在を証明できる確証は、無いといわれている。
仮に前世といわれているものが存在したとすれば、恐竜やアメーバだったことを示しているといえるだろう。
都合よく作られた曖昧なものに人生を賭けるのは、ギャンブルよりも効率が落ちるといえるのかもしれない。
確実に分かっているのは、何かの集合体という事実だけとなる。意識を除けば..
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