最終更新:2024年10月11日
2.夢
Aは疲れ切っていた。
疲れ果てて、ぐっすり眠ることで、回復することもなかった。
事実は逆だった。
眠れないのか?と言えば、眠る事は出来ていた。
眠れるからこそ、疲れがとれないのだ。
なぜなら、Aが眠りに付くと、その直後、目が覚める夢が始まるのだから。
そして夢の中で一日が終わる。
夢の中でベッドに潜り眠りについた瞬間、現実で目が覚めるのだ。
しかも、夢の中での記憶も残っていた。
毎日がこのような繰り返しであるため、Aは眠ったような感覚が無いに等しかった。
このままでは身が持たないと思い、Aは考え方を変えることにした。
まず「眠った気がしない、と言っても、実際には活動出来ている。これはただ感覚の問題だけだ」とAは、自分に言い聞かせた。
すると、幾(いく)らか気分が楽になった。
そして「考えようによっては、二つの人生を楽しめる」と、前向きに考えられるようになった。
二つの人生では、別々の家庭を持っていた。
どちらも、大きな問題はなかった。
何か問題が起きた時も、もう一つの人生で気分転換が出来るため、気にならず、どちらも幸せな人生を歩んでいた。
そんなある日の事、別の問題が起きた。
眠りに落ちた時、いつもなら、もう一つの人生で目が覚める。
それが、全く別の場所で目が覚めたのだ。
Aは慌てた。
「これは夢なのか?それとも現実なのか?」
Aはもはや、どちらが現実でどちらが夢なのか判断できなくなっていたのだった。
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補足
記憶が曖昧なものだとしたら、夢と現実の違いも曖昧なものになると考えたとしても、さほど違和感はないといえるのかもしれない。
例えば寝ている時に、そのまま寝ている状態で喉が痛い事を確認している夢を見たとする。
起きてみると、喉は痛くない。それで夢だったことに気づく。
なぜ、そのような夢を見たのか?といえば、過去に喉が痛い経験をして、それが記憶に残っており、呼び覚まされたという可能性もある。
このように、夢は記憶と密接に関わっているといえるだろう。
現実も夢も記憶により作られているのだとすれば、厳密にいえば、どちらが現実か分からなくなったとしても不思議ではない。
もしかすると、今、これを読んでいるあなたも、夢の中なのかもしれない。
だとすれば、目覚めた時「おかしな夢をみた」と思うだろう。
次は..3.感覚
感想
この短編小説を読んで、夢と現実の境界が曖昧になる感覚が強く心に残りました。私も以前、夢で感じた強烈な感情が、目覚めた後も消えず、現実にまで影響を与えた経験があります。この作品は、まさにその感覚を巧みに描いていて、物語の中に自分を見つけたような気がしました。夢の世界が現実に侵食してくる、その不安と魅力を同時に味わうことができ、非常に印象的でした。
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