最終更新:2024年11月7日
91.滅ぼす理由
ユリは目の前に広がる破壊の光景に立ち尽くしていた。瓦礫の山に積もる灰色の空、焼け焦げた鉄の臭いが鼻を突き、彼女の心を深くえぐった。足元には無数のガラス片が散らばり、踏みしめるたびに鋭い音を立てる。静寂の中、唯一聞こえるのは、微かな風に混じった遠くの火のはぜる音だけだった。
その日も、ユリはいつも通りの平凡な日常を過ごしていた。都心のオフィスで働き、同僚と軽口を交わしながら仕事をこなす。何も変わらない、そんな日々が続くと思っていた。だが、何かがおかしいという違和感が、次第に彼女の中で膨らんでいった。
「最近、やけに物事がスムーズに運んでないか?」と、同僚のサトシが何気なく呟いた一言がユリの心に引っかかる。「そうかもしれない。でも、それが悪いこととは限らないわ」とユリは返すが、自分の言葉に確信が持てなかった。
日々の流れは、何かに誘導されているように感じた。自分の意思とは無関係に、決まったルートを辿っているような感覚。それは彼女を徐々に追い詰めていった。
ある晩、彼女は夢の中で一人の男に出会った。男は無表情で言葉を放った。「この世界を滅ぼす理由が、君には分かるか?」
ユリはその問いに答えられなかった。理由など考えたこともなかったからだ。しかし、男の言葉は頭から離れず、彼女を不安にさせた。翌日、ユリは街を歩きながら、その夢の意味を考えていた。なぜ、世界は滅ぼされるべきなのか?
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「なぜ、そんなに理由を気にするの?」と友人のマリが言った。「私たちはただ生きているだけで十分じゃない?深く考えすぎると、かえって幸せを逃してしまうわよ。」
だが、ユリはそれで納得できなかった。何かが、もっと深いところで彼女を突き動かしていた。
数日後、ユリはある都市伝説を耳にする。それは「無の支配者」と呼ばれる存在が、全ての物事を「滅ぼす」ために操っているというものだった。その話を聞いた瞬間、彼女の中で何かが弾けた。「もし、この世界が意図的に操作されているなら、その支配者を見つけ出して、全てを終わらせなければならない…。」
ユリは決意を固め、支配者の痕跡を追い始めた。あらゆる情報をかき集め、次第にその存在に近づいていく。やがて彼女は廃墟と化したビルの一角にたどり着いた。そこには、無数の機械が唸りを上げ、制御不能のエネルギーが満ち溢れていた。
そして彼女は、遂に支配者と対面する。だが、その正体は彼女自身だった。無意識のうちに、彼女が自らの手で世界を「滅ぼす」計画を進めていたのだ。ユリは愕然としながら、全てを終わらせるために最後の決断を下す。しかし、その瞬間、彼女はもう一つの真実に気づく。「滅ぼす理由なんて、最初から存在しなかったのかもしれない…。」
物語の終わりに、ユリはすべてを放棄し、静かにその場を去った。しかし、彼女の心には問いが残る。
「もし、あなたが世界を滅ぼす力を持っていたら、どんな理由でそれを行いますか?」
次は..92.記憶の罠
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