最終更新:2024年11月2日
89.宇宙
そこは銀河連邦の、とある研究所での話である。
A博士は助手に言った。
「これで、よしだな」
助手は言った。
「はい。設定は終わりました。
しかし博士、この装置は人道的に許されるものなのでしょうか?」
A博士は答えた。
「そうだな。けれども宇宙全体の平和と進歩のためには、仕方ないことなのだよ」
それを聞いた助手は言った。
「確かにそうかもしれません。この『悪の物質を特定の場所に集約させる装置』がなければ、私達はここまで進化しなかったでしょう」
博士も同意した。
「その通りだ。これがなければ、宇宙に出る技術が出来る前に、各星の生物は皆、滅びていたことだろう。しかも万が一にも、この装置が悪用される心配もない」
それを聞いた助手は、心配そうに言った。
「そうだとしても、この装置を止める者が現れないとも限りません」
博士は言った。
「そうだな。人道的に耐えられない者もいるかもしれん。だからこそ、ここを出ると、その部分だけは記憶を自動消去されるシステムになっているだろう」
助手は言った。
「確かにそうですね。ところで、この私達の脳から抜き取られた悪の物質とは、どんなものなのですか?」
博士は答えた。
「それは、争いや競争意識、怒りや妬み嫉みなど様々だ」
助手は納得した。
「なるほど。では、その物質は何処へ集約されるのでしょうか?」
博士は答えた。
「これは我々の言う『ダークマター』という物質だ。
そしてこのダークマターは、ある星に集約されることになっている。
その物質が集まり、生命が誕生し、死んでまたダークマターへ帰るという繰り返しで成り立つ星だ」
それを聞いた助手は、興味深そうに聞いた。
「そんな星があるのですね。その星は何処にあるのですか?
もし、その星の技術が進化して宇宙に出てきたとしたら、大変なことになりますよ」
A博士は答えた。
「銀河の果てにある『地球』という星だ。一定の進化をすると自滅するようになっているので、その心配は無用だ」
それを聞いた助手は、質問を続けた。
「どうして自滅するのですか?」
博士は答えた。
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「それは我々のように全ての生物が均等に知能が上がるように設定されていないからだ。
もっともその均等を壊すエネルギーは全てその星に流れ込んでいくため、その星のお陰だといってもいいのだが..
おっと、肝心のその星についてだが、どんなに知能のある生物が増えても文明が一定の割合を超えたところで『働きアリの法則』が起こるようになっている。
これにより、お互いが足を引っ張りあいぶつかりあうことで、全て台無しにして自滅するようプログラミングされているからだよ」
助手はその説明を聞き感心した。
「そうなんですね。しかも地獄の玉と書いて地球ですか。なるほどですね」
博士は言った。
「そう。その言葉はかってその星で神の国と呼ばれていた場所で発生した言葉だ。
そんなことよりも、その星の住民のお陰で宇宙は平和で栄続けることが出来ている。
感謝しなければな」
助手も言った。
「そうですね。感謝しなければなりませんね」
そう言いながら、二人は研究所を後にした。
話した内容は感謝の気持ちと共に、既に忘れていたのだった。
補足
切磋琢磨と云われているように、競争や或いは議論であっても、進歩や進化のためには必要だという考え方もあるといえるだろう。
仮にそれらを抜きにして、自分の事だけでなく人類が一致団結出来た場合、どれほどの事が成し遂げられるだろうか?
とはいえ、多様な価値観や利害関係が渦巻く中、それは並大抵のことではない。
唯一可能性があるとすれば、そのためには共通の敵がいれば、もしかすると可能性が見えてくるのかもしれない。しかもその敵ですら勝手な理由で作られる可能性が高い。
裏を返せば、そうでもしない限り全人類の団結が無理だとすれば、どうなるだろう?
結果としてそれが出来たとしても、宇宙に存在するかもしれない進化した星々には受け入れてもらえない可能性が高い。
なぜなら、かれらは敵とみなされる前提となるのだから..
次は..90.恋心2
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