38.脳
Aは機械を身体の一部のように、自由に動かせた。
Aは元レーサーだった。
レーサーだった時には、車を手足のように自由自在にコントロールしていた。
その後、コントロールの腕をかわれ、引退後は巨大なロボットを動かしていた。
それが今では、遥かに遠くに離れたロボットを手足のように動かしている。
技術が発展し繊細な作業を出来るようにするため、感覚も伝わってくる。
遠隔操作しているロボットで暑いものを持つと、自分にも直に暑い感覚が伝わるのだ。
遠隔操作用のロボットのテストはAの働きもあり順調に進み、一般化されるようになった。
Aは個人的に購入し、買い物など家を出る用事があるものは、そのロボットを遠隔操作してやるようにした。
Aは仕事も私生活も遠隔操作用のロボットでやっていたため、身体は退化し益々依存するようになっていった。
そのうち自分の身体を動かすよりも、ロボットの方がスムーズに動かせるようになった。
年月が経ち、Aの身体は遂に動かなくなった。
それでもAは、何不自由なく生活できた。
今ではそのロボットで、月面旅行を楽しんでいるのだった。
補足
他人の身体を自分に付け替えたとする。
身体が突然なくなったとしたら、それは自分自身の一部とみなされない可能性が高いため、かなりのストレスが生じることは間違いない。
自分の身体から他人の身体になることで、馴染むまでに時間がかかることが予想される。身体含め自分自身だといえるからだ。
であるなら、少しずつ取り替えたならどうだろう?
しっくりしてきた時には、自分の身体と変わらなくなるのではないだろうか。
これは他人の身体といった想像の中でなくとも、身近なものでも理解できる。
例えば長い棒を持つ時、脳内では自分の手が伸びた感覚になるという。
そうでなければ、使いこなせないからだ。
他にもゲーム内でキャラクターを操作している時、発汗作用が生じる事もある。これと似ている現象だといえるだろう。
だとすれば、感覚と何かをつなげばどうなるだろう?
「手足のようにコントロールしている」といった感覚があるのなら、脳に栄養さえ足りていれば、脳だけでも生活出来るのかもしれない。
これこそが、コスパ最高だといえるのだろうか?
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